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富山地方裁判所高岡支部 昭和43年(ワ)192号 判決

原告

松沢二三

被告

岩本武夫

ほか一名

主文

一、被告らは原告に対し金二〇三、二〇〇円およびこれに対する、被告岩本武夫については昭和四四年一月八日以降、同有限会社蓮井組については同四三年一二月六日以降、支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二、原告のその余の請求を棄却する。

三、訴訟費用は被告らの連帯負担とする。

四、本判決中、原告勝訴部分に限り、被告らに対しそれぞれ金七〇、〇〇〇円の担保をたてるときは、その被告に対し、仮りに執行することができる。

事実

第一、当事者の求める裁判

(原告)

一、被告らは連帯して原告に対し金六五五、六六〇円およびこれに対する、被告岩本武夫(以下、被告岩本という)については昭和四四年一月八日以降、同有限会社蓮井組(以下、被告会社という)については同四三年一二月六日以降、支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二、訴訟費用は被告らの負担とする。

三、仮執行の宣言。

(被告ら)

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

第二、原告の請求の原因

一、(事故の発生)被告岩本は、昭和四三年八月二八日午後零時三五分ごろ普通貨物自動車(以下、被告車という)を運転して滋賀県草津市野路町地先国道一号線路上を進行中、信号待ちのため停車していた田島和夫運転の原告所有の普通乗用自動車(以下、原告車という)に追突した。

二、(被告らの責任)

1  被告岩本には前方不注視、速度違反および鋼材超過積載の過失があつたものである。

2  被告会社は、貨物運送を目的とした自動車運送業を営み被告岩本を自己の営業のため使用し、自動車運転の業務に従事させているものであるところ、本件事故は同岩本が被告会社の事業の執行のためその所有の自動車を運転中、過失によつて惹起したものである。

三、(原告の損害)本件事故により原告車は大破したものであるところ、原告は新車たる原告車(四三年式ダットサンブルーバードセミデラックス)を本件事故の僅か二三日前の昭和四三年八月五日に六二二、〇〇〇円(富山市店頭渡し)で購入したばかりであり、事故当時の走行距離も約一、〇一五キロで新車同様のものであつた。

ところで、原告車は本件事故により新車(同様)としての物理的経済的価値が減少したものであるから、右損害の填補としては単に損傷部分の修理代の弁償を受けただけでは足りず、被告らにおいて右損傷した原告車を引取る代りに右事故前の原告車と同一種類同一性能の新車(同様のもの)を原告に引渡すべきであるところ、これに代えて右新車の価額六二二、〇〇〇円に自動車取得税一八、六六〇円を加算した六四〇、六六〇円を原告に支払うべきである。

なお、原告車が使用できなかつた損害金一五、〇〇〇円も併せて支払うべきである。

四、(結論)よつて、原告は被告らに対し右損害金合計六五五、六六〇円およびこれに対する本件訴状送達の翌日たる、被告岩本については昭和四四年一月八日、被告会社については同四三年一二月六日、以降支払済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三、請求の原因に対する被告らの答弁

一、請求の原因一項の事実中、原告主張のころ、主張の場所で衝突したことは認めるが、その余は不知。

二、同二項の事実中、被告会社が貨物運送を目的とした自動車運送業を営み、被告岩本を自己の営業のため自動車運転の業務に従事させていることは認め、被告岩本に過失があつたことは不知。

三、同三項の事実中、原告車の損害額が八一、五〇〇円であることは認めるが、その余の事実および主張は争う。

第四、証拠〔略〕

理由

一、〔証拠略〕によれば、請求の原因一項の事実全部、同二項の1の事実中被告岩本に前方不注視の過失があつたことおよび同二項の2の事実全部が認められ、この認定を動かすに足りる証拠はない。(なお、被告岩本の速度違反の事実を認むべき証拠はなく、また被告岩本本人の供述によれば鋼材超過積載の事実は認められるが、それを直ちに本件事故発生についての過失とみるべき証拠や事情は認められない。)

二、自動車が事故により損傷を受けた場合の損害額は次のように算定されるべきである。すなわち、事故による損傷につき、修繕によつて自動車が事故前の原状に回復した場合または回復することが可能な場合は右修繕代(および修繕期間中の使用不能による損害)が損害額であるが、原状に回復しなかつた場合または回復の不能な場合は、その価格の算定が可能である限り、自動車の交換価格の減少分すなわち事故直前の取引価額と事故後の取引価額の差額が損害額である。

本件についてこれをみるに、〔証拠略〕によれば、原告は昭和四三年八月五日富山日産自動車より新車たる原告車(四三年式ダットサンブルーバードセミデラックス)を六四万円で買入れる旨の契約を結び、同月七日登録済のものを翌八日に引渡しを受けたところ、本件事故はその二〇日後に生じたもので、事故当時の累積走行粁数は多くとも一八三七粁であり、当時は乗心地も快適で新車同様のものであつたこと、本件事故により、リヤバンバー、リヤバネル上下および左右リアフェンダーの変形破損、トランクのフロアおよび左右骨格変形、左前照灯および左前方向指示灯の破損等の損傷が生じ、事故後富山日産自動車高岡整備工場において修繕がなされ、その修繕代は七三、二〇〇円(内訳は修繕部品代二八、七〇〇円、修繕工賃代四四、五〇〇円)であつたこと、右修繕後においても原告車には、ハンドルを左にとられるまたは車体が曲つているような感じで車が傾いたようになつて走るくせがついている、走行中トランク等がガタガタと異音をたてる、ドアのストリップ(ゴム製パッキング)がはがれてくる等の障害がみられ、再修繕をするも右障害は修復されえないことが認められ、〔証拠略〕によるも右認定を動かすに足りない。右によれば原告車の損傷は修繕により原状に回復しないものというべきであるから、原告車の本件事故による損害額は、その交換価格の減少分によつて、算定されるべきである。

そして、〔証拠略〕によれば、原告車の本件事故直前の取引価額は、日本損保協会料率算定会認定鑑定人綿谷好三津の鑑定によると六〇万円であり、富山日産自動車株式会社セールスマン河原秀実の判断によると新車顧客価格より登録による価額低落額(いわゆるナンバー落ち)として五万円を差引いたものであること、同河原秀実の判断によると、一般に自動車の事故後の取引価額は、事故直前のそれより修繕代と事故による価額低落額(いわゆる事故落ち)を差引いた価額であり、原告車の本件事故による価額低落額は一三万円であることが認められる。そして右鑑定ないし判断はいずれも信頼してよいものと考えられる。(もつとも、証人綿谷の証言によると原告車にはシャーシーのないことが認められるところ、前記河原秀実の一三万円なる判断に際しては、事故により原告車のシャーシーが曲つたことを一つの根拠資料にしているかのごとくであり、もしそうだとすると、右判断は前記の原告車にはシャーシーのない事実に照らして採用できないことになる。しかし、証人綿谷も原告車に部分的にはシャーシーに代わるものが存在することを認めているのみならず、前記認定の原告車に修繕後も残存する障害は、シャーシーが曲つた場合に発生するのと同様の障害であると考えられ、それ故にこそ河原秀実も右障害から考えて本件事故によりシャーシーが曲つたものと考えたにすぎないことが伺われるので、結局、原告車にはシャーシーがないという事実にも拘らず、前記河原秀実の一三万円なる判断を採用しうるものである。)

以上によれば、他に格別の証拠もない本件において、原告車の本件事故直前の取引価額は五九万円ないし六〇万円であり、事故後のそれは右価額より修繕代七三、二〇〇円と事故による価額低落額一三万円を差引いたものすなわち三八六、八〇〇円ないし三九六、八〇〇円であるので、右両価額の差額は二〇三、二〇〇円となり、これが原告車が本件事故により受けた損害額である。(河原秀実の判断によれば、両価額の差額は二三万円なるも、これは修繕代を概算で一〇万円と見積つたことによるものであるから右二三万円なる判断は採用しえない。)

三、よつて、原告の本訴請求のうち被告らに対し二〇三、二〇〇円およびこれに対する本件事故発生の後であり、本件訴状送達の翌日なること記録上明らかな被告岩本については昭和四四年一月八日以降、被告会社については同四三年一二月六日以降、支払済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は理由があるからこれを認容し、その余の部分は理由がないからこれを棄却し、民事訴訟法八九条、九二条但書、九三条一項但書、一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 古川正孝)

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